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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)12019号 判決 1999年3月29日

原告

筒井禎晟

右訴訟代理人弁護士

豊川義明

徳井義幸

被告

積水ハウス株式会社

右代表者代表取締役

奥井功

右訴訟代理人弁護士

森博行

上野勝

水田通治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、一八五一万一八五二円及び平成九年一一月以降毎月末日限り、一か月四八万七一五四円の割合による金員の支払をせよ。

第二事案の概要

一  本件は、被告の従業員であった原告が、平成六年八月四日、被告から解雇の意思表示を受けたが、その効力を争い、被告に対し、従業員たる地位の確認と解雇後の賃金の支払を求める事案である。

二  争いのない事実等

1  当事者等

(一) 被告は、本店を肩書地に置き、建物建築請負、不動産売買、不動産仲介等を主たる目的とする株式会社であり、その従業員数は約一万四四〇〇名にのぼる。

(二) 原告は、昭和四四年一月、被告に雇用され、被告大阪営業所の所属となり、昭和四六年三月から昭和四七年七月まで休職したこともあったが、同年八月には、北大阪営業所に復帰し、昭和五五年には、同営業所の分譲担当の営業課長となった。しかし、昭和五八年一二月、同営業所の開発担当の営業課長に配転され、昭和六一年一〇月ころより、専属の女子アルバイト事務員中村正子(以下「中村」という。)以外には直属の部下を持たないいわゆる「単独プレーヤー」として、営業第一線の受注業務に従事していた。

(三) 原告の賃金は、毎月二五日払いであり、月額は四八万七一五四円である。

2  株式会社マリオネットの設立等

(一) 不動産の売買、仲介、賃貸及び管理業等を目的とする株式会社マリオネット(以下「マリオネット」という。)及び紅葉株式会社(以下「紅葉」という。)が、本店をともに大阪市西区<以下略>にして、平成元年四月一〇日に設立された。マリオネットの設立時の代表取締役村尾貴子(以下「村尾」という。)は、原告の実姉であるが、愛媛県に在住する主婦で、不動産取引の経験はない。紅葉の設立時の代表取締役は、堀口よし江こと植村真理子こと岡山よし江(以下「岡山」という。)であり、取締役には、堀口君江、堀口義一が就任していたが、右両名は、岡山の両親である。堀口君江と岡山は、マリオネットの取締役をも兼務していた。両社の設立事務を処理した税理士森本好昭(以下「森本」という。)は、原告の知己であり、マリオネットの監査役に就任した。

(二) その後、岡山及び堀口君江は、平成三年一一月一日、マリオネットの取締役を、森本は同監査役をそれぞれ退任し、原告の実妹三谷節子(以下「三谷」という。)及び原告の叔父植松義光(以下「植松」という。)が取締役に、原告の取引関係者であった桑原督法こと桑原正好(以下「桑原」という。)が監査役にそれぞれ就任し、植松が代表取締役に選任されている。

(三) 被告は、マリオネット設立直後、同社との間で「『積水ハウス物件』不動産管理委託契約」なる継続的契約(以下「本件管理契約」という。)を締結し、平成二年五月から五年間、断続的に、一か月当たり九万七〇〇〇円(消費税別)の管理委託費を支払い続けた。

3  畑本博司ら所有土地の売買

(一) 被告の関連会社で不動産売買、仲介、管理等を目的とする関西積和不動産株式会社(以下「関西積和不動産」という。)は、業務提携関係にあった税理士吉岡敏(以下「吉岡」という。)から畑本博司(以下「畑本」という。)及び竹内悦子所有の伊丹市<以下略>所在の五九八六平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)の紹介を受け、その商品化について、関西積和不動産北大阪営業所課長西田好孝(以下「西田」という。)において、平成五年四月二三日、原告に対し、相談を持ちかけた。そこで、原告は、本件土地につき調査を開始し、紅葉に情報を流したり、関西電力株式会社の子会社である昭和土地開発株式会社や、株式会社大和銀行(以下「大和銀行」という。)本店不動産部次長西久保暁(以下「西久保」という。)に購入を打診したり、購入希望者の有無を照会するなどして、本件土地の売買に尽力してきた。

(二) しかるところ、畑本は、同年一〇月二九日、本件土地の地目を畑から雑種地へ変更する旨の登記手続きをし、同年一一月五日、関西積和不動産らの仲介のもと、タケツー等に対して売却した(ただし、契約書には、買主がハイエリアと記載されている。)。

(三) マリオネットは、代表者植松名義で、畑本に対し、平成五年一一月八日付けで「このたびの契約において大和銀行及び関西積和を選び、マリオネット及び被告を除外して最終的に実行したのは他ならぬ貴殿であるから、実行加害者としての責任は重大であります。マリオネットの情報をもって契約し、利益を受けた貴殿に対し、本来本物件の不動産取引金額の三パーセントを報酬金として請求すべきところではあるが、貴殿は実行加害者として当社に損害を与えておりますのでその額を損害金として御請求申し上げます。」と記載された内容証明郵便を差し出した。

畑本は、これに対する回答を留保していたところ、マリオネットは、取締役桑原名義で、畑本に対し、平成五年一二月二九日付けで、立替え費用名目で約二七万円の金員を請求する旨記載された内容証明郵便を差し出した。なお、右内容証明郵便の末尾には、「万一貴殿に注意しているにもかかわらず、マリオネットに連絡・回答なき場合は関係した工事関係者をもって騙しの張本人として法的に貴殿を叫(ママ)弾するつもりです。」と記載されていた。

4  原告の呼出し

(一) 被告は、平成六年五月二四日及び同年六月三日、同月一三日、原告に出頭を求め、マリオネットと原告の関係及び畑本に対する書簡の件について事情を聴取した。

(二) 被告は、原告に対し、解雇事由の存在を告げ、退職を勧めるため、平成六年七月二二日、同月二六日、同年八月四日の三度、被告本社に呼び出したが、原告は出頭しなかった。

5  解雇の意思表示等

(一) 被告は、原告に対し、平成六年八月四日、同年八月八日付けで通常解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。

(二) 右解雇における解雇事由は、次のとおりである。

(1) 原告が、被告と事業目的を一部競合するマリオネットを設立し、その業務に従事したこと(就業規則四条三号及び六二条一七号該当事由)

(2) 原告が、職務上知り得た情報を利用し、利益を得、又は得ようとしたこと。さらに、職務上の地位を利用して、平成元(ママ)年から平成五年まで、被告からマリオネットに、委託管理(ママ)費名目で毎月九万七〇〇〇円を支払わせたこと(四条四号及び六二条一三号該当事由)

(3) 原告が被告の取引業者である株式会社ふそう工務店(以下「ふそう工務店」という。)から一〇〇〇万円近いリベートを受取ったこと(四条四号及び六二条一二号該当事由)

(4) 原告が畑本に対して規定以上の仲介手数料の支払を求めたこと(四条四号及び六二条一三号該当事由)

(5) 原告が被告の出頭命令に従わなかったこと(六二条七号該当事由)

(三) 被告の就業規則には、次の規定がある(抄録)。

第四条 従業員は次の各号を遵守しなければならない。

三  業務に支障を生ずるか、会社の利益に反するような他の業務に従事しないこと。

四  会社における職務を利用して私利をはからないこと。

第六二条 従業員が次の各号の一に該当するときは、懲戒解雇とする。

七  職務上の指示命令に不当に従わず、職場の秩序を乱したり乱そうとしたとき。

一二 業務に関し不当な金品その他を受取りまたは与えたとき。

一三 職務を利用して私利を図り、図ろうとしたとき。

一七 その他前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

第二(ママ)争点

一  解雇事由の存否。具体的には、次の五点である。

1  原告が、マリオネットを実質的に経営していたか否か。

2(一)  原告が、職務上知り得た情報を利用して、私的な利益を得、また得ようとしたか。

(二)  被告からマリオネットへの毎月九万七〇〇〇円の支払が就業規則四条四号及び六二条一三号に該当するか。

3  原告が、ふそう工務店から一〇〇〇万円近いリベートを受取ったか否か。

4  原告が、本件土地の売買において、マリオネットを介して規定以上の仲介手数料を要求したか否か。

5  原告が、被告の平成六年七月二二日、同月二六日、同年八月四日の三度の呼出しに応じなかったことが、就業規則六二条七号に該当するか。

二  本件解雇が解雇権の濫用であるか否か。

第四争点に関する当事者の主張

一  争点一1について

1  被告

原告は、被告と営業目的を同じくするマリオネットを設立し、これを実質的に経営して被告の利益に反する行動をしたものであるが、これを示す事実として次のものがある。

(一) 原告は、平成元年ころ、かつて原告の取引先の不動産業者の従業員だった岡山に対し、独立して一緒に事業をしようと持ちかけ、その承諾を得て、両名出資のうえで、マリオネット及び紅葉を設立した。

(二) 原告は、表向きはマリオネットの役員にはなっていなかったものの、原告がマリオネットの代表者印等を管理、保管していた。

(三) 同社の役員として名を連ねている森本及び岡山は、いずれも原告から求められて名義を貸したにすぎなかった。

(四) また、マリオネットは、平成三年ころまでは、一人の従業員もいない会社であり、原告は、経理を中村に、被告の定休日たる水曜日だけ出社させて処理し、その余の日常業務はすべて紅葉に代行させていた。

2  原告

(一) 被告の北大阪営業所は、三和銀行あるいはTKCという税理士グループと連携して営業を展開していたが、原告は被告に「単独プレーヤー」扱いされ、業務から隔離されたので、被告の従業員として営業成績を上げるために、やむなく住友銀行あるいはFICという税理士グループとのつながりを開拓せざるを得なかった。原告は、昭和六三年一〇月ころ、住友銀行大正区支店で地上げ業者を紹介されたが、住友銀行及び被(ママ)告は地上げに関与していることが公になるのを嫌ったため、植松に相談を持ちかけ、地上げ情報の受け皿会社(マリオネット)を設立するように要請した。ただ、植松は、マリオネット設立当時、大和銀行の子会社である総合住宅金融株式会社(以下「総合住金」という。)の取締役営業部長の地位にあったことから、金銭を出資することはともかく、マリオネットに関連して名前が出ることを嫌い、原告の姉である村尾にマリオネットの代表者に就任するように要請したものである。

(二) 村尾と岡山は、マリオネット及び紅葉設立に当たり、村尾が副代理人を選任し、副代理人が業務を統括し、指導にあたり、経営に関し重大な事態が発生すれば副代理人の指示に従う旨記載された覚書き及び副代理人の指示に従う旨記載された協定書を交わしたが、ここにいう副代理人とは植松を指す。現に村尾は、マリオネットの経営に関して植松に相談し、同人の指導をうけて業務に従事していた。マリオネットに現実に出資したのも村尾であり、原告は出資していない。

したがって、マリオネットの実質的な支配者は、原告ではなく、植松である。

(三) マリオネットの代表者印、通帳、銀行印等は、いずれも岡山が持ち出して管理していた。

(四) マリオネットには、加藤理佳(以下「加藤」という。)という経理担当従業員が存在していたし、中村は、マリオネットの業務に全く関与していなかった。

二  争点一2(一)について

1  被告

(一) 原告は、被告の営業担当課長として職務上知り得た不動産仲介情報等を、マリオネットが組織する「マリオネット不動産情報センター」なる情報源から出たものであるかのように装い、これを紅葉に流し、紅葉において右情報を利用して仲介活動を行い、成約後の仲介報酬が得られた場合には、これを両社で分け合うという活動方法を採っていた。

(二) 大阪府堺市堺東所在の物件の代金一〇〇億円の売買取引の仲介人に被告ほか数社が入ったが、原告はマリオネットを仲介人として参加させ、手数料四〇〇〇万円を取得した。仲介手数料は、マリオネットから原告に流れるところとなった。

(三) 原告は、本件土地の売買が成約となる直前の平成五年一一月ころ、その関係者に対し、その取引の仲介人にマリオネットを加えるように要求し、関係者から断られると、タケツーに対し、コンサルタント料としてマリオネットに一五〇〇万円支払うように要求した。

(四) また、原告は、平成五年一一月八日、畑本に対し、マリオネット代表者の名で、前述の同日付け内容証明郵便(第二、一(ママ)、3、(三))を送ったが、これは原告が損害賠償名下に利益を得ようとしたものである。

なお、マリオネットが原告の実質的に支配する会社である以上、マリオネットの右内容証明郵便は、いずれも実質的には原告が差し出したものというべきである。

2  原告

(一) マリオネットは、地上げ情報の受け皿と発信元の役割を果たす会社であり、紅葉はその情報を利用して地上げを実行する会社である。しかし、被告の主張する「マリオネット不動産情報センター」は、平成元年にマリオネット及び紅葉が設立された後、バブル経済崩壊に伴う状況の変化を受けて地上げ業者及び建設業者の受注を図るために平成四年二月に設立された情報センターであり、原告もその一員であるが、これは被告の受注を図るための情報を獲得するためであって、原告の私腹を肥やすことを目的とするものではない。

(二) マリオネットは、堺東の物件の取引については、被告ら数社とともにその仲介を行ったが、経費の大半を負担しており、しかも仲介手数料約五〇〇〇万円から諸経費を控除した残額のうち、約一六〇〇万円は紅葉こと岡山に貸し付けられ、七〇〇万円は岡山の税金や役員報酬に当てられ、三〇〇万円は岡山の父に貸し付けられたもので、原告に金員が流れた事実はない。

(三) 原告が、マリオネットを仲介人に加えるように求めたり、タケツーにコンサルタント料を要求したことはない。

(四) 被告主張の平成五年一一月八日付け内容証明郵便は、マリオネットが出したもので、原告が出したものではない。前述のとおり、原告がマリオネットを事実上支配するということはない。

三  争点一2(二)について

1  被告

被告がマリオネットに対して管理委託費名目で支払った毎月九万七〇〇〇円は、原告が同社を実質的に支配している以上、原告が取得したものと同視しうるものである。

2  原告

被告のマリオネットに対する業務委託は、被告内で必要な上司の決裁を得た。当然ながら、原告は右管理委託費を受け取っていない。

四  争点一3について

1  被告

原告は、大阪府枚方市内の建物建設工事請負取引において、つき合いのあったふそう工務店を施主に紹介し、紅葉をしてふそう工務店から一〇〇〇万円近い金員を受け取らせた。右金員は、紅葉から原告に流れるところになったものであり、実質的には原告がリベートを取得したというべきである。

2  原告

紅葉は、枚方の物件については、管理費名目で約九〇〇万円の金員の支払を受けたが、事前に松吉の承認を得た金員であり、その後に建設業者に渡っており、原告が取得した事実はない。また、原告は、ふそう工務店とはつきあいはない。

五  争点一4について

1  被告

前述のとおり、原告は、本件土地売買について、マリオネットを仲介人に加えるように要求し、タケツーに対し、コンサルタント料としてマリオネットに一五〇〇万円を支払うように要求して、これを承諾させたが、正規の仲介手数料の範囲としては、二〇〇〇万円を仲介した数社で分割すべきもので、右一五〇〇万円が仲介料であるとしても、過大にすぎるものである。

なお、タケツーは、一旦原告の要求を了承したものの、その後の原告の背信行為を理由に、結局これを支払わなかった。

2  原告

原告が、タケツーに対し、一五〇〇万円をマリオネットに支払うように要求したことはない。

六  争点一5について

1  被告

原告は、正当な理由なく三度にわたって出頭命令に従わなかったが、これは、被告就業規則六二条七号に該当する。

2  原告

被告の主張は争う。

七  争点二について

1  原告

本件解雇は、被告内において被告の命令であっても不合理にして納得できないことには、唯々諾々と従うことなく言うべきことを言うという行動をとってきた原告を社外に排除しようとの動機からなされたもので、不法な動機に基づくものである。

しかも解雇手続きにも右の動機が貫かれており、原告への告知、聴聞が全くなされていない。すなわち、被告は、平成六年五月二四日、同年六月三日、同月一三日に聴聞の機会を与えたというが、これらは解雇に至るための聴聞や弁明の機会では全くない。そして、原告が解雇通知の翌日である平成六年八月五日、代理人弁護士とともに、解雇の理由を問いに被告を訪れた際にも、被告は解雇の具体的理由について全く答えず、本件に先立つ地位保全等仮処分命令申立事件(大阪地方裁判所平成六年(ヨ)三六八四号。以下、「本件仮処分」という。)の申立て後まで明らかにしなかった。このような解雇の経過が原告に聴聞と弁明の機会を与えたといえないことは明白である。

2  被告

本件解雇は、原告の就業規則違反によるもので、原告を排除するという不法な動機はない。そして、手続的にも、平成六年五月二四日、同年六月三日、同月一三日と弁明の機会を与えており、本件解雇を濫用とする事由はない。

第五争点に対する判断

一  争点一1について

1  被告は、原告が被告と営業目的を同じくするマリオネットを設立してこれを実質的に営業していた旨主張するところ、(証拠略)(岡山の本件仮処分事件の口頭弁論における供述)、(証拠略)(岡山の陳述書)には、原告は、昭和六〇年前後、他社で不動産業に従事していた岡山と、不動産取引の過程で知り合い、しばらく不動産に関する情報交換を行う関係を続けた後、岡山に対し、独立をもちかけたこと、そして、平成元年四月一〇日、原告が探し出した大阪市西区所在のビルの一室を本店所在地として、いずれも不動産業等を目的とするマリオネット及び紅葉を設立したこと、原告は、マリオネットの資本金三〇〇万円のうち二〇〇万円、紅葉の資本金二〇〇万円のうち一〇〇万円をそれぞれ出資し、マリオネット及び紅葉の資本金各一〇〇万円合計二〇〇万円は、岡山が出資したこと、マリオネット設立当初、同社には従業員は一人もおらず、原告の指示を受けて、岡山が両社の営業を実行し、紅葉の経理担当の女性従業員が、両社の日常業務を取り仕切っていたこと、原告は、マリオネットには不定期に出社するにすぎなかったが、岡山が不動産取引を成立させても、報酬等の収入はすべてマリオネットに入金するように指示していたこと等の記載があり、これは右被告の主張に沿うものである。そして、マリオネットの代表取締役に就任した村尾は愛媛県に在住しており、単なる主婦であり不動産取引の経験もなく、マリオネットの営業に実質的に関わることは不可能であったし、(証拠略)(植松の陳述書)によれば、原告の叔父である植松にしても、当時何らの出資もせず、他社の取締役営業部長の職にあって、マリオネットの経営に実質的に関与できる立場になく、右報告書においても、関与した旨を記述するものではない。結局、マリオネットの経営に実質的に関与できた者としては原告と岡山以外には考えられないところ、(証拠略)によれば、マリオネットの発起人はすべて原告の旧知の間柄の人物であり、岡山とは接点の乏しい人物ばかりであり、植松にその設立を強く持ちかけているし、その設立手続きを森本に依頼していることが認められ、出資金についても岡山の出資比率は原告よりも低い(原告は村尾自身が現実に出資した旨主張するところ、これを採用できないことは後述のとおりであるが、ここでは、原告の主張を前提に考慮しても、村尾の出資については原告と岡山の関係では、原告側の出資とみることになる。)。また、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、マリオネット、紅葉のした仕事に対する報酬等がすべてマリオネットに入金されていたこと、原告と岡山とが男女関係にあったことが認められ、これらによれば、原告が岡山に優越した立場にあったことは明白で、前述の岡山の各供述ないし陳述の記載は、これが具体的かつ詳細で右事実と符合することからすれば、岡山が原告から一方的に男女関係を破棄された恨みをもって供述していることを考慮してもなお、信用するに足りるというべきである。マリオネットの出資金について、証人村尾は、植松からマリオネットの役員になるように依頼されたとき、植松が総合住金に在籍していたことから同人が出資することには差し支えがあると考え、自ら出資を申し出て、義父名義の不動産を自宅購入のために売却した代金から右資金を捻出し、マリオネットに二〇〇万円、紅葉に一一〇万円を出資したと供述し、(証拠略)はこれに沿うが、しかしながら、村尾は、義父名義の自宅の売却代金が、必ずしも、同証人の処分可能なものとはいえないのに、これを右出資金として拠出することについて誰にも相談しなかったし、右出資金を持参するために来阪までしながら植松に交付することもせず、原告の妻に交付したと供述するが、右供述はいずれも不自然であるというべきであり、採用することができず、(証拠略)により、右出資金は原告が出資したものと認める。

以上を総合すれば、原告は岡山に指示するなどしてマリオネットを実質的に経営していたものと認めるべきである。

2  原告は、自らはマリオネットの経営には全く関与しておらず、植松が実質的な経営者としてマリオネットの経営を取り仕切っていたと供述し、本件仮処分の口頭弁論でも同趣旨の供述をするが(<証拠略>)、証人村尾は、マリオネットの経営については林、大橋茂(以下「大橋」という。)ないしは銀行関係者が植松に代わって取り仕切っていたと供述し、また、植松は、マリオネット設立直後から平成三年一一月に総合住金を退職して同社取締役に就任するまでの間は、日常的な業務運営は岡山と事務員に行わせ、時折村尾からの相談を受けつつ、場合によっては指示を出しながら業務を行わせていたと本件仮処分事件の口頭弁論で供述するなど、その間の供述は重要な部分で一致せず、結局いずれも採用し難いものである。

二  争点二1(ママ)及び四(ママ)について

1  原告が四〇〇〇万円の仲介手数料を私的に費消したとの点について

(一) (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告及びマリオネットは、他数社とともに、大阪府堺市堺東所在の物件の取引の仲介業務を行ったこと、被告の中で現実に右取引に関わったのは原告であったこと、マリオネットは、平成三年二月二二日、右取引の仲介手数料名目で、有限会社エイエムシーから四八〇五万三五〇〇円の振り込みを受けたことが認められる。

そして、前記一認定のとおり、マリオネットは原告が実質的に経営する会社であるから、右金員は、実質的には原告が取得したものであると推認され、原告が被告の従業員として右取引に関与していたことからすると、原告は職務上知り得た情報を利用して右私的な利益を取得したものと推認される。

(二) これに対し、原告は、右取引においては、マリオネットがその経費の大半を支出したところ、右四八〇五万三五〇〇円から諸経費を控除した残額のうち約一六〇〇万円は紅葉こと岡山に貸し付けられ、七〇〇万円は岡山の税金や役員報酬に当てられ、三〇〇万円は岡山の父に貸し付けられたものであると主張するが、マリオネットが右取引における経費の大半を支出したとの事実を認めるに足りる証拠はなく、また、取得した金員の使途については、これが原告の主張のとおりであるとしても、それによって原告が私的な利益を取得したことを正当化するものではない。

2  原告がタケツーに一五〇〇万円を要求したとの点について

(一) 弁論の全趣旨によれば、関西積和不動産が吉岡から畑本ら所有の本件土地の紹介を受けたこと、右土地には地目が畑であることや高圧送電線設置のための地役権が設定されている等の売却の障害となる事由が存在し、商品化が困難な状態であったこと、原告は関西積和不動産の西田を通じて本件土地の情報をつかみ、さらに本件土地の情報が紅葉、大和銀行を通じてタケツーに流れたこと、原告は被告の業務として明豊、タケツー、紅葉、大和銀行、関西積和不動産と協議をした結果、原告が中心となって本件土地のとりまとめをすることとなり、特に右地役権者である関西電力から建築同意書を得ることなどの点について条件を整備していたこと、畑本は、関西積和不動産との間において、平成五年七月二二日、本件土地の専任媒介契約を締結し、タケツーは大和銀行を通じて同年八月九日に本件土地のとりまとめを依頼したこと、畑本、関西積和不動産、タケツー、ハイエリア、ソリューションは、同年九月一日、本件土地について同年一〇月末日までに売買契約を締結する旨の協定書を締結したことが認められる。

(二) 橋(ママ)本は、右協定書締結後の同年九月一三日、本件土地の契約締結に向けた準備を進めるため、タケツー本社に原告、西田、橋(ママ)本らが集まり、タケツーの代表取締役小中村正廣(以下「小中村」という。)、大畑らと打ち合わせを行ったが、その席上、原告が被告の担当者として本件土地のとりまとめに尽力しているので、本件土地の仲介手数料は約二〇〇〇万円を大和銀行、明豊、紅葉とで分け合うということになっていたが、被告が本件土地の買主側に名を連ねて、仲介料を分け合ってはどうかという話が出ると、原告は突然人払いを申し出て、小中村、大畑、橋(ママ)本の合計四人になったところで、小中村及び大畑に対し、七〇〇万円を五〇〇万円にするような、業者を泣かせるような商売をしても今後につながらないから、別に考えてもらわないと、自分が動いてきたことが報われない、マリオネットに一五〇〇万円を支払えと要求し、タケツーは一旦はことわったものの、同年一〇月ころ、本件土地を商品化するうえで不可欠な関西電力からの建築同意書は原告が中心となって交渉を行っていることなどから、本件土地を早くとりまとめて売買を実行するため、やむなく一五〇〇万円を支払うこととした旨本件仮処分事件における口頭弁論で供述し(<証拠略>)、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。

右供述ないし記載の信用性を判断するに、右供述ないし記載内容それ自体が具体的かつ詳細であるし、右供述ないし記載内容を裏付けるものとして、(証拠略)には、大畑は、被告北大阪支店部長大森昌彦(以下「大森」という。)に対し、原告から近隣対策及びコンサルタントフィーとして一五〇〇万円を請求され、当初はこれを受け入れなかったが、原告の協力が不可欠であると考えるに至ったので右金員を支払うこととしたとの記載があり、(証拠略)には、原告がタケツーに対し開発及びコンサルタントフィーとして一五〇〇万円を要求したとの記載があるので、右供述ないし記載は信用するに足りるというべきである。

これに対し、原告は、本件仮処分事件の口頭弁論において右要求行為を否定する供述をするが(<証拠略>)、前掲各証拠に照らし、採用することができない。

(三) 宅地建物取引業法四六条一項には、宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は賃借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、建設大臣の定めるところによると定められ、建設省告示第一五五二号には、右報酬の額が依頼者の一方につき当該取引に係る不動産の価額の三パーセント(当該取引に係る不動産の価額が四〇〇万円を超える場合)と定められている。そして、(証拠略)によれば、本件土地の売買代金は七億三〇〇〇万円であると認められるので、仲介手数料として要求しうる額は二一九〇万円であると認められる。

右仲介手数料は、複数業者が取引に関与した場合には、右仲介手数料を数社で分け合うべきものであり、本件土地の取引においては、買主側に大和銀行ら数社が関与していたのであるから、二一九〇万円の約四分の三にのぼる一五〇〇万円を請求することは、明らかに過大であるというべきである。

(四) 以上の事実を総合すれば、原告は、本件土地の売買に関連して、一五〇〇万円の仲介手数料をマリオネットに支払うよう要求したと認められるところ、マリオネットが実質的に原告の支配する会社であることは前記一認定のとおりであるから、原告は、タケツーに対し、本件土地の売買において、規定以上の仲介手数料を要求したものであると認められる。

3  原告が畑本に対して損害賠償を請求したとの点について

(一) 畑本らが、平成五年一〇月、本件土地の地目を畑から雑種地に変更し、同年一一月五日、関西積和不動産らの仲介のもと、タケツー(ただし、契約書上の買主はハイエリア)に対して本件土地を売却したこと、マリオネットが、代表者植松名義で、畑本に対し、平成五年一一月八日付けで、本件土地売買がマリオネット及び被告を除外してなされたことについて責任を追及し、不動産取引金額の三パーセントの金員を損害賠償請求する旨の内容証明郵便(<証拠略>)を差し出したこと、畑本がこれに回答を留保していたところ、マリオネットは、取締役桑原名義で、畑本に対し、同年一二月二九日付けで、立替え費用名目で約二七万円を請求する旨の内容証明郵便(<証拠略>)を差し出したことは、当事者間に争いがない。

そして、前記2(三)認定のとおり、本件土地の取引による業者が請求できる仲介手数料は、本件土地の価額の三パーセントが上限であるから、右請求金額の合計が法定の手数料の上限を超えることは明らかである。

(二) (証拠略)、原告の本件仮処分事件における本人尋問の結果(<証拠略>)、原告本人尋問の結果によれば、原告は、マリオネットの植松及び桑原に対し、本件土地売買に至る経緯について説明し、自ら文面を下書きしたうえで、右内容証明郵便をマリオネット名義で差し出してもらったことが認められ、これに前記一認定のとおりマリオネットは原告が実質的に支配する会社であることを総合すると、右内容証明郵便は、いずれも原告がマリオネットを介して差し出したものであると認められる。

(三) 原告は、本件土地上には、多数の樹木が植えられていたため、地目を畑から雑種地に変更することは不可能であったのに、畑本、関西積和不動産、タケツーらは、被告の担当者として本件土地のとりまとめに尽力してきた原告をことさらに排除し、違法な手段により地目を変更し、本件土地の売買契約を成立させたのであり、何ら有効な対策を採らない被告に代わり、被告の利益を守るため、マリオネットに右内容証明郵便を差し出すよう求めたにすぎないと主張するが、たとえ本件土地の売買契約成立の過程で被告の利益が侵害されていたとしても、これに対してどのような対策を講じるかは専ら被告内部の意思決定の問題であり、被告の代表権もなく、具体的な委任もない原告が、第三者に対して損害賠償請求をすることが正当化されるものではないというべきであるから、被(ママ)告の右主張は理由がない。

(四) 以上認定の事実によれば、原告は、畑本らに対し、マリオネットを介し、規定以上の仲介手数料を要求したと認められる。

三  争点一2(二)について

1  被告がマリオネットとの間で本件管理委託契約に関連し、マリオネットに対し平成二年五月から五年間断続的に一か月当たり九万七〇〇〇円の管理委託費を支払い続けたことは当事者間に争いがない。そして、前記一認定のとおり、マリオネットが原告の実質的に支配するものであることが認められるのであるから、右九万七〇〇〇円は実質的に原告が取得したものというべきである。

2  この点、原告は、本件管理委託契約は、原告の専属のアルバイト従業員であった中村の業務量が極めて多かったことについて父から苦情を受けたため、上司に善処を求めたが、埒があかないので、アルバイトの残業時間の費用の範囲内で外部に業務委託をせざるを得なかったとして、原告が被告の従業員として業務を遂行するために必要不可欠な措置として行ったものであるし、右管理委託費の支払も所定の手続きを履践し、被告北大阪支店長松吉の決裁印を得てからなされていたものであるから、被告は右支払を承認していたというべきであって、これを解雇事由とすることはできないと主張する。

しかしながら、原告一人の業務のために深夜まで残業を余儀なくされるというのは業務量としてやや不自然であって、本件管理委託契約の締結が真に業務の遂行上やむを得ないものであったのか否か疑問の残るところであるし、本件全証拠をもってしてもマリオネットが右委託に基づいて処理した事務の内容は明らかではない。そして、弁論の全趣旨によれば、原告は、右管理委託費の支出の決裁を得るに際してはマリオネットが原告の実質的に支配する会社であると報告していなかったと推認され、そうすると、原告が管理委託費用の支払に際して上司の決裁を得たからといって、右管理委託費用の支払が実質的に原告の取得することになっていることを被告が承諾していたということはできない。

四  争点一3について

1  (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、岩佐株式会社が同社所有にかかる大阪府枚方市内の土地上に冷凍倉庫の建築をふそう株式会社(ママ)に総額約一〇億円で請負わせる際、被告がその監理をしたこと、被告内における右案件の担当者は原告であったこと、原告がふそう工務店から九〇一万一八八二円を受けとったことが認められる。

2  (証拠略)には、原告は、ふそう工務店からリベートを受けとるに先立ち、マリオネット名義では領収書を発行できないので、岡山に対し、紅葉名義で領収書を発行するよう求め、岡山を連れてふそう工務店の事務所へ行き、岡山が紅葉名義で領収書を発行するのと引き替えに、原告がふそう工務店から右約九〇〇万円のリベートを現金で受け取り、そのまま立ち去ったとの記載があり、岡山は本件仮処分事件においてこれに沿う供述をする(<証拠略>)。

岡山の供述は具体的であって客観的証拠とも矛盾しないので信用するに足りるものであるが、右記載ないし供述も、右約九〇〇万円の領収書を紅葉名義で発行したとの点は原告もこれを自認するところであるし(<証拠略>)、右領収書発行に至る経緯も具体的でかつ自然であるので、信用するに足りる。

3  この点、証人森計男(以下「森」という。)及び原告は、右土地に関する請負契約は、もともと岩佐株式会社代表者から小林を通じて森が情報をつかみ、これを原告に流したことがきっかけとなって成立したこと、平成四年一〇月ころ、大阪市内のホテルのロビーで、原告から紙袋に入った約九〇〇万円の現金を、右情報提供料の趣旨で受け取り、これを同席していた小林と分け合ったことを供述し(本件仮処分事件の口頭弁論における供述を含む。)、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。

しかしながら、約九〇〇万円の現金を領収書を発行せずに授受することはやや不自然であるし、森は、右約九〇〇万円の算定根拠について、代金(約六億円)の一・五ないし二パーセント(<証拠略>)、賃料(月額七五〇万円ないし七六〇万円程度)の一か月分(証人森の証言)との異なる供述をしており、賃料の一か月分であれば現実に授受した額に合わないのであるから、供述内容が矛盾しているし、原告の右供述も、紅葉が領収書を発行している事実を合理的に説明できないから、いずれも採用することができない。

4  以上の事実を総合すると、原告は、大阪府枚方市内の建物建築請負工事に関連して、約九〇〇万円のリベートを取得したと認められる。

五  争点一5について

1  (証拠略)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成六年五月二四日、同年六月三日、同月一三日に原告を呼び出し、事情聴取をしたこと、他の調査結果も総合して原告には解雇事由が存在するとの心証を形成し、解雇理由の要旨を起案したうえ、同年七月二二日、同月二六日、同年八月四日の三度にわたって呼び出したが、原告はこれに出頭しなかったと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

2  原告は、右三度の呼出しに先だって同年五月二四日、同年六月三日、同月一三日の呼出しに応じ、被告の質問にも十分に回答したし、被告は既に原告には解雇事由が存在するとの心証を形成して解雇手続きに取りかかっており、原告の言い分にまともに耳を傾ける姿勢を有していなかったこと、警察より捜査への障害にならないように口を封じられていたことから、右不出頭には正当な理由があると主張し、これに沿う供述をする。

しかしながら、たとえ被告が解雇事由が存在するとの心証を形成して解雇手続きを進めていたとしても、それだけでは右不出頭を正当化できるものではないし、警察から捜査への障害にならないように口を封じられていたとの原告の供述はにわかに採用し難い。むしろ、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告の出頭命令に応じない理由として「物事の善悪のつかない幹部を登用した」「当社の上司を処分しないかぎり、今後呼び出し等についても遠慮させていただきたいのが本音です」等と記載された書簡を被告に差し出したことが認められるので、原告が被告に出頭しなかった真の理由は、被告の措置に不満を抱いていたことにあると推認され、そうすると、原告が右呼出しに応じなかったことについて正当な理由があったとは到底認められず、その他これを認めるに足りる証拠はない。

六  争点二について

原告は、本件解雇が、言うべきことは言うという行動をとってきた原告を社外に排除しようとの動機からなされたものであり、また、告知、聴聞も全く経ずに行われたものであって、解雇権を濫用するものであるとの主張もしているけれども、本件解雇が右のような動機に基づいて行われたものであることを認めるに足りる証拠はなく、また、被告は、平成六年五月二四日、同年六月三日、同月一三日に原告から事情聴取し、同年七月二二日、同月二六日及び同年八月四日にも原告から事情を聴取しようとした(これに対し原告が正当な理由なく出頭しなかったことは前記のとおりである。)のであるから、本件解雇が告知、聴聞を全く経ずに行われたものであるということはできず、本件解雇の意思表示について解雇権の濫用を基礎づける事実はこれを認めることはできない。

七  結論

以上の事実によれば、本件解雇の意思表示の前提となった解雇事由はこれをいずれも認めることができ、本件解雇を無効とする事由はないので、原告の請求はいずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 谷口安史 裁判官 森鍵一)

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